中嶋敦子(アニメーター・キャラクターデザイナー)原画 『薄桜鬼』×アニマンコラボキーヴィジュアル 完成記念インタビュー
第3回を迎える今年のアニマン祭は、2025年に創立50周年を迎えるスタジオディーンとのイベント。そこで、本年度のアニメノマンガノムサシノでは、スタジオディーンの代表作のひとつであるアニメ版『薄桜鬼』をフューチャー。アニメ版のキャラクターデザイナーである中嶋敦子さん本人の原画による、スペシャルなキーヴィジュアルを制作しました。
この完成を記念して、長年、多数の作品で原画、作画監督、キャラクターデザイナーを務めている中嶋さんにお話を伺いました。
新選組が吉祥寺ハモニカ横丁を巡察?
——ついに完成しました『薄桜鬼』コラボキーヴィジュアル。中嶋さん、大変お疲れ様でした。
中嶋敦子(以下:中嶋):ありがとうございます!
——『薄桜鬼』の新選組隊士が吉祥寺の有名スポット、「ハモニカ横丁」にやってくるというシチュエーション。お描きになっていかがでしたか。
※ハモニカ横丁:戦後の闇市にルーツを持つ商店街、飲食店街。多数の小さな店が建ち並ぶ様が「ハーモニカの吹口のよう」と例えられたことからこの名前がついた。独特のロケーションが残っていることから、吉祥寺の名所のひとつとなっている。
中嶋:いや、あの頭身のキャラクターがぎゅうぎゅうに詰まっているのが大変で(笑)
——他にもロケーションの候補はありましたが、作画という意味では一番大変な場所が選ばれてしまいましたね。
中嶋:しかも、最初のお話では「最初の攻略キャラになっている5人で……」ということだったんですが、描いていたら6人になってしまいまして。でも、やっぱり(永倉)新八がいないと違うんですよ。近藤(勇局長)さんには悪いんですが(笑)
——制作途中にラフ画等を見せていただいた時に「あれ? 増えてる」と(笑)
中嶋:絵としてキャラの配置を考えたら、藤堂(平助)がいて、新八がいて。そういう波のある形のシチュエーションが浮かんでしまいまして……描いちゃった(笑)
——いや、大変ありがたい形となりました。ちなみに、あの並び順になった理由はどのようなものなのですか?
中嶋:やっぱり沖田(総司)がまだ元気で、その後ろに土方(歳三)さんがいて。斎藤(一)はやっぱり後ろか、という。ある種自然さというべきでしょうか。
ゲームとしては攻略という要素がありますから最初の作品のメインは5人、ということになりますが、アニメの方はまた少し違う。やっぱり、画面の中で躍動していたキャラたちがちゃんといないと「違うな〜」と。
——今回は、幕末に活動した新選組の隊士たちが現代の吉祥寺に現れるという、一種タイムスリップ的なシチュエーションになりましたが、不思議と違和感がないと思いました。
中嶋:最初にハモニカ横丁の資料をいただいた時に、提灯のオレンジが全体の色彩を作っている写真があったんですね。そのイメージもあって、それを活かしたいと。かといってキャラクターと色味がぶつかってしまうわけにもいきませんので、うまく全体の色彩をオレンジに馴染ませてくださいとお願いしました。ハモニカ横丁のイメージがあって、それでいてキャラも埋没しない絵になったと思います。
——今回は、中嶋さん原画で、さらに多くのスタッフにも参加してもらいました。良い作品が上がったと思います。ありがとうございました。
中嶋さんとスタジオディーン
——中嶋さんは、1980年代前半からキャリアがはじまりまして、多くの作品を原画、作画監督、キャラクターデザインなどとして手がけられてきました。
中嶋:そうですね。専門学校を出て、いきなりフリーランス。専門学校で一緒だったひとたちと、スタジオをつくって。滅茶苦茶ですよね、考えなしというか(笑)
まったく後ろ盾のない状態で、自分たちで仕事をとってきて、やっていた。
いやー、ありえない(笑)
——その中でも、スタジオディーンさんとはかなり密接にお仕事をされてきました。
中嶋:ディーンさんとは長いですね。フリーのスタジオから、机をお借りする形でディーンさんに行って、仕事をしていました。
——1980年代のスタジオディーンといえば、『うる星やつら』『めぞん一刻』『らんま1/2』など高橋留美子作品が有名です。
中嶋:初めて作画監督をやらせてもらったのが『うる星やつら』なんです。当時は人がいなかったんですね(笑) その延長上で『めぞん一刻』でも作画監督をやりました。
——当時のテレビアニメは、現在と比べてもハードな現場だったと思いますが。
中嶋:ハードでしたね。最初はもう少し人数がいたのですが、後半になると作画監督が3人体制みたいになってしまいぐるぐると。
——毎月1本以上やっていた。
中嶋:はい(笑) 当時はセルの時代ですから、もうスケジュールをひっぱれないんですね。本当に落ちちゃう。今はオンラインで送れますから、もう本当にギリギリまで修正していたりすることもあるんですが、それができない時代でした。
本当に、制作のスタッフがセルと背景をもって飛び回っているという。
——その後、『らんま1/2』ではキャラクターデザイナーに就任されます。
中嶋:その前、『めぞん一刻』のあとに、『F』※がありましたね。そこから『らんま1/2』で初のキャラクターデザイナーです。もうずっと高橋先生の作品には関わらせてもらってきましたし、先生のマンガが好きでしたので、お話をいただいたときは「はいっ!」という感じでスムーズに受けちゃいましたね。
※『F』:六田登原作、ビッグコミックスピリッツ(小学館)掲載のカーレース作品。「何人たりとも俺の前は走らせねぇ」の台詞が著名。
——当時のスタジオディーンは、どんな雰囲気でしたか?
中嶋:もうとにかく色々な人がいて(笑) 出入りもありますし、様々な出会いがありましたね。『らんま1/2』の頃には、同年代だけではなく後輩にあたる年齢の人も含めて、とても良い出会いがありました。
——90年代までは、後に『逮捕しちゃうぞ』も手がけられますし、端からみていると「社員なんですか?」という感じだったようですが。
中嶋:よく言われます(笑)
——また、『らんま1/2』の後には、『スーパーズガン』※といった少しカラーの違う作品にも参加されています。
※『スーパーズガン』:片山まさゆき原作、近代麻雀オリジナル(竹書房)掲載の麻雀作品。理論・技術に優れていながら「ツキ」のなさ過ぎる主人公豊臣秀幸の苦難を描くギャグ作品。
中嶋:もらった仕事はもうだいたい受けることにしていたんですね。色々な経験ができれば、自分にとってプラスになるじゃないですか。でも麻雀は覚えられませんでした(笑)
あと、自分が好きな作品ばかりだと、固まっちゃうじゃないですか。どんな作品でも、その作品に集中しますから、色々な作品に関わることで、柔軟性がでてくるというか。
長い付き合いとなった『薄桜鬼』
——そんな中嶋さんのキャリアの中でも、『薄桜鬼』は長期間携わっている作品となっています。
中嶋:長いですね〜。私は比較的、長期間にわたって作品に関わることが多いのですが、その中でも最長の方です(笑)
——仕事のオファーが来たときはどう思われましたか。
中嶋:新選組が題材の作品ですし、そういう経験もありましたし、キャラクターが魅力的じゃないですか。なので「やりますよ〜」と受けまして(笑)
でも、良い作品ですよね。ちゃんと史実にのっとって、その上でアレンジされている。ものすごくしっかりしています。
あと、主人公の雪村千鶴ちゃんが、女性向け作品の女性キャラクターなのに、ファンに嫌われないキャラになっている。珍しいんですよね。そこもすごい作りの作品だと思います。
——ちなみに、すっかり「歴女」などという言葉も定着してしまいましたが、もともと歴史物はお好きでしたか?
中嶋:それまでも普通には好きでしたが、やっぱり作品として関わることで、猛烈に勉強して、より深く興味をもったというべきだと思います。
でも、長くやってきて、知識も増えて、仕事としては楽になる部分もありますが、大変な所もありますね。
最初は、単純に作品が好きになって夢中になって仕事をするんですが、だんだん、キャラクターに対する思い入れが深くなったり。だからこそ「このキャラこういうことするのかな?」なんて思っちゃったりと、そういうこともあります。
——ところで、『薄桜鬼』のキャラクターですと、誰がお好きですか?
中嶋:やっぱり土方さん(笑) エンディングを担当したときは、もう自分の好きにつくっちゃったり(笑)
——なるほど(笑) しかし、深く関わられてきた『薄桜鬼』ですが、中嶋さんの中での「位置づけ」としてはどのような作品となっているのでしょうか。
中嶋:やはり、初めてキャラクターデザインをさせてもらった『らんま1/2』は私の中では別格の存在ですが、『薄桜鬼』はそれと並ぶ、私の仕事としての代表作、といったものとなっています。
それくらい大切な作品ですので、今回アニマン祭でフューチャーされることや、キーヴィジュアルを描かせてもらったのは良かったと思います。
——本日はありがとうございました。