アニメノマンガノムサシノ2022 特別座談会 「アニメ・マンガの街武蔵野市のポテンシャルと課題」リポート
コンパクトにまとまった街の魅力
江口:マンガとアニメは世界に誇れる文化なんですけど、これが武蔵野市に集中しているのは奇跡。なんだかわかんないけど、マンガ家もアニメスタジオも多いんですよね。そこに惹きつけられる魅力が武蔵野市にはあるんです。個人的には、徒歩圏内にコンパクトになんでもある街ってあんまりないんです。マンガ家もイラストレーターも時間がない人ですから、そのコンパクトになんでも揃うのがいいんですよね。だから、昔から作家さんも多いですよね。
松下:井の頭公園もいいですよね。
江口:そう、水があるのがいいですよね。
——すごく楽しみでキービジュアルに期待が膨らんできました。サンロードでもフラッグのお仕事を。
江口:あの絵は自分の中で一番の代表作だと思っています。単純な線なんですけど、あの単純さがね。あれ、最初は2点でいいっていわれていたんですけど、僕が2点より10点のほうがいいなと思って残りの8点は勝手に描いたんですよ。僕は『週刊少年ジャンプ』出身だから楽しませたいという気持ちが強いんです。おかげで飾られた時は壮観だったし、僕のことをまったく知らない小学生だとか、中学生の女の子がすごく写真を撮っていた。それは、本望です。知らない子たちが楽しんでくれたのが嬉しかったですね。
——あのイラストも、サンロードの人たちを
江口:僕は吉祥寺で見かけるコを描いたんです。誇張もしていません。
——実際、吉祥寺の街を歩いているコたちですよね。いま、千葉県立美術館で企画展が開かれていますが、これが吉祥寺で開かれたらなあと思うのですが。
江口:もちろん吉祥寺でもやりたいんですよ。武蔵野市美術館でやれないかと相談はしたことがあったのですが、点数が500点くらいあって面積的に収まらなくて。だから、そういう展示施設もあったらいいですよねえ。
——先生から観た街の魅力とは
江口:都会過ぎない、ほどよいところですよね。前は個人商店とかも残っていたのですが、やっぱり今はどこの地方に行ってみても、みんな同じなんですよね。僕はいろんな所にいく機会があるけれど駅前はどこも一緒。僕が越してきた若い頃はいろいろな街に個性があったんです。吉祥寺も、卵屋……藁の上で卵だけ売っている店があったりしましたよね。それは極端だけど、どこいってもショッピングモールみたいな駅前はつまらないです。そうでない吉祥寺に魅力を感じていたんですよ。喫茶店のボアとか。そういうものがどんどんなくなっている。
※ボア:1958年から2007年まで営業していた喫茶店。開店当時はまだ珍しかったケーキを出す店であった。店内には画家東郷青児の描いた巨大な絵画が名物だった。
——稲垣理事長は昔から吉祥寺の商店街をよくみていると思いますが?
稲垣:はい……。いま先生から吉祥寺の魅力というお話がありましたけれど、これについては……2011年に吉祥寺と井の頭公園がミシュランの一つ星になったんですが、それの理由はちょっとオシャレな街だから、なんですよね。イメージとしては帽子を被った女性が犬を連れてちょっと喫茶店に寄るような。そんなイメージなんです。いま喫茶店の話もされましたが、一時は日本でもっとも喫茶店が多い街だったんですが、そういうのも少なくなってきた。街の魅力としてよそから来た人にいわれるのは、ハモニカ横丁とか獣道の多いこと。そういうこともありますので、吉祥寺はほかの地域に比べて綺麗な街といわれています……。それは、街の人が清掃をやったりしているからなのですが。それに井の頭公園の存在価値は大きいですよね。あと、美術館は11年前に市に要望してやっとできたわけなのですが、今後はもっと広いものをなんとか工面していただいて、江口先生の作品も展示できればいいなと思っています。
——江口先生のよくいくスポットは
江口:ハモニカ横丁はよく呑んでいますね。あそこは、古いところも残しつつ新しさも取り入れていて大成功ですよね。ああいう形で残せるものは残して欲しい。でも、ハモニカ横丁、40年くらい住んでいてまだ入っていない店があるんですよ。看板だけで中が見えなくて。五日市街道のところの居酒屋の闇太郎も20年くらい怖くて入れなかったんですよ。あと、井の頭公園は健康のためによく歩いています。
松下:闇太郎はマンガで名前を変えて出していますよね。
江口:あれは、怖くて入れない時期に描いていたのですが、それを店主さんが読んで頂いていたようで。
※闇太郎:吉祥寺から10分ほど歩いた五日市街道沿いにある老舗の居酒屋。多くの作家、クリエイターが集まることで知られている。