クリエイターインタビュー 第3回 後編 株式会社スタジオディーン 代表取締役 池田愼一郎
クリエイターインタビュー第三回は、スタジオディーン。
スタジオディーンは、1975年の創業以来、高橋留美子作品や『機動警察パトレイバー』などで著名となり、近年では『薄桜鬼』『ヘタリア』などの女性向け作品や、『ひぐらしのなく頃に』『地獄少女』などのホラー・ミステリー路線、『GIANT KILLING』『グラゼニ』などのスポーツものなど、幅の広い作品を送り出している大手スタジオです。
同社は2005年に現在の吉祥寺南町に自社ビルを購入し、武蔵野市に移転。以来市内で活発な活動を行っています。
後編では、2025年に50周年を迎えるスタジオディーンが「アニメ産業」に対してどんな改革をおこなっているのかを中心にお話しを聞きました。
当たり前の姿勢こそ難しい
⸺現在のスタジオディーンはどういった姿勢で作品作りを進めているのでしょうか。
池田:スタジオディーンのグループ会社では主に子供向けのキャラクターを扱ってきた。だから、基本的には厳しい表現、つまり過度の流血とかセクシーすぎる表現はやらないようにしています。とはいえ、これも時代ごとの社会通念に支配されます。かつてはNGだった表現も、今の時代はOKだったり、その逆のケースもある。
ただ、弊社が避けたいのは「いつの時代でもダメな表現」であって、今の社会に許されている表現でもダメなものはダメ。今、社会から批判を浴びていても表現すべきはする、ということを目指しています。
⸺本当に気を遣っているのは根底の部分なのですね。
池田:そうですね。でも、今それが出来ているかはともかくとして、そうした「哲学」のようなものをしっかりしていきたいです。当然ビジュアルは美しく、ストーリー・脚本はしっかりとしたものを。要するに当たり前のことをやろう、ということだけなんですね。
また、今はインターネットの発展で、視聴者・ユーザーの声がダイレクトに、しかも素早く届きます。ここが難しいですね。批判はしっかり聞きますが、聞こえてくる声はただの誹謗中傷だったりするし、批判と誹謗の見分けも簡単ではない。ただ、聞こえてくる声にはきっちり耳を傾け、その上で迎合はしない。自分たちで納得したものを作っていく。そうしていくと。大変ですね(笑)
⸺絶対的に必要な。いってみれば当たり前の姿勢ですが、その当たり前こそが一番大変で難しいことですね。
池田:確固たる姿勢をもって作品を作っていく。そのためには、やはりある程度余裕を持って、それぞれが自分で考える時間や様々なことを反芻する時間が必要になるんですね。
だから、結構前ですが。時間を早く終わろうと提案しました。「なるべく早く帰る」「定時を意識して仕事をする」のだと。当初は「仕事が回らなくなるのでは」と心配した幹部も多かったのですが、今では問題なく仕事をこなしています。
バブル経済の時代、この頃日本経済は最盛期を迎えましたが、長時間労働が普通だった。CMで「24時間働けますか」なんてやっていた時代です。(1988年の三共(現・第一三共ヘルスケア)の栄養ドリンク「リゲイン」のCMソングの歌詞)。この時でも、アメリカなどに比べ、日本の「生産性」は低かったんですね。長時間労働で無理矢理売上を向上させていただけなんです。当時から「これでいいのか」と思っていました。そこからいろいろと模索はしてきたのですが、ある時「売上は下がっても良い。ちゃんと帰ろう」と言いました。
⸺普通は売上が下がれば、そのセクションの幹部の責任になります。ますます反対意見も多かったのではないでしょうか。
池田:当然、最初は「売上は下がり」ますよ。当たり前です。長年やってきたスタイルを変えるのですからすぐには対応出来ない。服装のカジュアル化も同じでした。でも、何年かやってくると、少しずつ効果が出てくる。顕著なのは、新しく我々に加わってくれる社員のみんな。イマ・グループ、スタジオディーンは、勤務時間がある程度しっかりしている。これが、ひとつの大きなモチベーションになっているんです。「なんでウチに入りたいと思ってくれたのですか?」と聞くと、「良い作品を作っているから」と言ってもらえるのが一番嬉しいのですが、「残業が少ないと聞いて……」と(笑)
⸺以前の「クリエイター」とはスタイルが変わってきているんですね。
池田:良い作品を作りたいという気持ちは変わっていないと思います。ただ、長時間労働が常に求められる時代ではありません。それに今の若い人も、チャンスがあれば、昔の人以上に頑張ることもあるでしょう。