クリエイターインタビュー 第3回 後編 株式会社スタジオディーン 代表取締役 池田愼一郎
クリエイティヴであるためにあえて帰る
⸺クリエイターに必要なのは「インプット」です。本を読んで映画を観て飲みに行って。色々摂取して、その中から表現したいことが湧き出てくる。「金になりそう」なアイデアも見つかる。要するに、定時に退社して映画を観て飲みに行って、家に帰って本を読んで楽しく過ごせと。実は昔の人の方がそうやって過ごしていて、素晴らしい作品を送り出してきました。忙しくなったら缶詰でしたけど(笑)
池田:そうなんです。ある意味、勤務時間をちゃんと守ろうというのは、原点回帰というか、古いスタイルなんですね。以前は存在した余裕のある時間を取り戻す事につながります。携帯電話、インターネットの実用化で仕事の効率が上がった反面、メリハリがなくなり、忙しい時間がずっと続くようになった。そこを改善するには、できるだけ定時に帰ることができる環境を作ることが有効です。
⸺その効果は中期的には出てきてのでしょうか。
池田:とりあえず、最低限ある程度までは戻ってきています。つまり、さらなる「伸び」の可能性が出てきている。そこで思い出すのが、海外のおもちゃ関係の経営者達なんです。いわゆる、世界の「業界」の人たちが、集まる機会が毎年あるんですね。幸運にも、そうした人たちのメンバーに私も加わることができて、年に1回か2回、会合でハワイに行っていました。
しかしそこでも、やっぱり私は会社が気になるから、一所懸命にビジネスをしてしまうんですね。いろいろな人と話をして、常にノートパソコンを開いて連絡をとっている。でも、他の人は違うんです。「確かにここで今年の大きな流れの話はする。でも、今はこのハワイの素晴らしいトロピカルフルーツを満喫するんだ」と(笑)つまり、次なるビジネスのために、インプットと休息の機会を意識的に作っている。それが必要なんだと。「おもちゃ」というものは、シビアなビジネスの世界から生まれているけれども、それを買って遊ぶのは、子供も大人も「楽しい」を得るためなんです。だから、それを作って売る我々に笑顔が無くては売れる物も売れない。そう教えられました。確かに、ですよね。
⸺そうした経験は、どのような形で経営に取り入れているのですか。
池田:職業クリエイターという職種は、なんだかんだといって常に何かに追われている仕事なので難しいのですが……。とりあえず、すぐに出来るところで、社員の誕生日を休みにしています。
⸺それが簡単に結果へ結びつくわけではないにしても、そういう社員のケアこそが、結局は一番「稼げる」ことにつながる。少なくとも理想論としてはそうなるわけですね。
池田:その通りです。少しでもバランスをとっていきたい。