クリエイターインタビュー 第3回 前編 株式会社スタジオディーン 代表取締役 池田愼一郎
納期が迫った会社の雰囲気は社長でも怖い
⸺2011 年からスタジオディーンの指揮も執ることになった池田社長ですが「アニメ制作会社」のトップとなって、最初はどのような印象を持ちましたか?
池田:私はそもそもおもちゃ業界で育った人間です。ですから「キャラクター」というものの扱い方というか位置づけが、アニメとおもちゃ、さらにはゲーム産業など、業種によって同じ「キャラクター」なのに、まったく違うということを実感しました。根本は同じキャラクターを扱うにしても、各ジャンルで考え方も「作法」も別々でしたね。
⸺また、この時期はアニメ業界もデジタル化というか「フルデジタル制作」「3Dモデルの使用が当たり前」になる動きが本格化した頃でした。
池田:デジタル化の推進には、当然積極的に取り組みました。むしろやらないことは許されない状況だったので、しごく当然でした。現実問題として、今はもうほとんどがデジタル作画、デジタル撮影ですからね。とはいえ「デジタルだから良いアニメだ」ではないということは、当時から意識していました。海外の知人が、3Dアニメに熱心で、よく私に導入を勧めてくれていたのですが、日本の2Dアニメはあなたの国でも人気があるじゃないですかと(笑)
アニメの良さというものは、技術が優れているから出てくるものではない。ストーリー性、暖かさ、その他諸々全てが含められた総合的なもののはずですよね。だから、技術は必要だとしても、それに特化するつもりはありませんでした。
⸺特に海外では、特殊効果だけに特化したスタジオなどもありますが、そうしたスタイルは目指さない、ということでしょうか。
池田:弊社の社員は、大ベテランから若手まで様々な年齢層で構成されていますが、基本的にはみんな同じ認識ですね。ともかく、ちゃんと良い作品を作ってそれで利益を出すんだという感覚です。
でもそれだけではない。当然時間の制限があります。納期に間に合わせなければならないから、やっぱり〆切が近づくと現場はものすごいことになるんですね。そういうときは、私はここには来ません。私がいても邪魔なだけですので(笑)
⸺トップの条件ですね。「上の人」がいると現場はプレッシャーを必要以上に感じてかえって悪い結果を招くことも多い。邪魔者(トップの人)はトップ本人が排除しなければならない(笑)
池田:しかし結局、当面時間との闘いからは逃れられないので、やはり妥協もしなければならない。単純に良いものを作りたいという気持ちと、間に合わせるという現実をどこで折り合わせるか。経営者としては、時間のために犠牲にしたものの無念をただ聞くという役割を負う必要があるし、批判の矢面に立つ役割もある。社員のみんなが安心して「可能な限り」を果たすために、私がいるようにできれば良いと思います。まだまだ修行中ですので、なかなかその「役割」を遂行出来ているとはいいきれませんが。